家の中に大きい蟻、特にクロオオアリが現れた時、多くの人が直感的に抱く心配が「家が食べられてしまうのではないか」という点です。この強烈なイメージは、家屋に壊滅的な被害をもたらすことで知られる「シロアリ」と混同されがちなことから来ています。しかし、クロオオアリとシロアリは、名前こそ似ていますが、生物学的には全く異なり、その生態や被害の出し方も大きく異なります。まず、分類上の違いとして、クロオオアリはハチの仲間である「アリ科」に属する昆虫ですが、シロアリは実はゴキブリの仲間である「ゴキブリ目」に分類されます。見た目の違いも明確で、クロオオアリは胸部と腹部の間がハチのようにくびれていますが、シロアリはずんどうな寸胴体型です。そして、決定的に違うのが食性です。シロアリは、木材の主成分であるセルロースを消化できる特殊な能力を持ち、木材そのものを栄養源として「食べる」スペシャリストです。家の土台や柱を内部から食い荒らし、建物の強度を著しく低下させる、まさに「家を食べる」害虫です。一方、クロオオアリは肉食性の強い雑食であり、木材を食べることはありません。彼らの主食は、昆虫の死骸や樹液、アブラムシの出す甘い分泌物などです。では、なぜクロオオアリが家屋に害を及ぼすことがあるのでしょうか。それは、彼らが巣を作るために、柔らかく腐りかけた木材を、その強靭な顎で「削り取る」からです。つまり、食べるのではなく、居住空間を拡張するために木を掘り進むのです。そのため、雨漏りなどで湿って腐食した柱や壁、断熱材の内部に巣を作られると、その部分の建材を脆くしてしまう可能性があります。シロアリは「家を食べる直接的な脅威」、大きい蟻は「条件が揃うと家を削る間接的な厄介者」と、その危険性のレベルを正しく理解しておくことが重要です。