その攻防戦は、一本の小枝から始まった。ある朝、ベランダの室外機の裏に、ぽつんと小枝が一本落ちているのを見つけた時、私はそれを風のいたずらだと思った。しかし、翌日、小枝は三本に増え、その次の日には、明らかに何者かの手によって、雑ながらも円形に組まれ始めていた。犯人は、鳩だった。私は慌てて、その作りかけの巣を払い落とした。これで諦めるだろう。しかし、私の考えは甘かった。翌朝、同じ場所には、昨日よりも多くの小枝で、より頑丈になった巣が、再び作られていたのだ。鳩という鳥の、驚異的な執着心を、私は初めて思い知った。それから、私と鳩との、静かなる、しかし熾烈な戦いが始まった。私が巣を壊せば、鳩は次の日にまた巣を作る。私は、インターネットで調べたあらゆる対策を試した。手すりにキラキラ光るCDを吊るし、室外機の上に剣山のような防鳥スパイクを置き、鳩が嫌うという木酢液の強烈な匂いをベランダ中に充満させた。しかし、彼らは、それらの障害物を巧みにかわし、あるいはものともせず、ただひたすらに、巣作りを続行しようとする。その執念は、もはや狂気の域に達していた。そして、ある週末、私が油断して二日ほどベラン-ダの確認を怠った、その隙を突かれた。巣の中には、ちょこんと、二つの白い卵が産み付けられていたのだ。私は、頭を抱えた。法律で、もう手が出せない。我が家のベランダは、その日を境に、完全に鳩の占領地と化した。それから約一ヶ月半。糞の臭いと、親鳥の羽音、そして雛が成長するにつれて聞こえてくる鳴き声に、私たちはひたすら耐え続けた。雛が巣立っていった日の朝、ベラン-ダが静寂を取り戻した時の解放感は、今でも忘れられない。私は、その日のうちに、ベランダ全体を覆う、巨大な防鳥ネットを注文した。もう、二度とあんな戦いはしたくない。鳩との戦いは、情けをかけた方が負けるのだ。