アシナガバチの巣駆除と聞くと、多くの人は軒下やベランダにできた巣を、殺虫剤で駆除する場面を想像するでしょう。しかし、我々プロの害虫駆除業者が日々対峙している現場は、それほど単純なものばかりではありません。アシナガバチは、人間が想像もしないような、あらゆる場所に巧みに巣を作り上げ、その駆除は時に困難と危険を極めます。ある夏の日、我々が依頼を受けたのは、築五十年の古い木造家屋でした。依頼内容は「二階の和室の天井から、最近ハチの羽音が聞こえる」というもの。依頼者様はアシナガバチだろうと高を括っていましたが、我々の経験が警鐘を鳴らしていました。天井裏の点検口を開け、防護服に身を包んで暗闇に足を踏み入れた瞬間、我々は息を呑みました。そこには、直径五十センチを超える巨大なアシナガバチの巣が、天井の梁からぶら下がっていたのです。おそらく数年前から同じ場所に営巣を繰り返し、巨大化したのでしょう。数えきれないほどのハチが、蠢く黒い塊となって巣を覆っていました。このような閉鎖空間での駆除は、逃げ場がないため非常に危険です。特殊なノズルを使って、巣の内部にまで薬剤が浸透するように、慎重かつ迅速に薬剤を注入していきます。一斉に飛び立つハチで視界が奪われる中、冷静さを保ち続ける精神力が求められます。また、アシナガバチは壁の隙間や、エアコンの室外機の内部、使われなくなった郵便ポストの中、さらには墓石の隙間といった、本当に多種多様な場所に巣を作ります。特に厄介なのが、壁の内部に巣を作られてしまったケースです。この場合、外から薬剤を注入するだけでは巣全体を駆除することが難しく、時には家主の許可を得て、壁の一部を解体して巣を摘出することさえあります。我々の仕事は、単に目の前の巣を取り除くだけではありません。最も重要なのは「戻りバチ」対策です。駆除作業時に巣を離れていたハチは、何も知らずに元の場所に戻ってきます。そして、巣がなくなっていることに興奮し、周辺を攻撃的になって飛び回るのです。我々は、巣があった場所に専用の薬剤を残留塗布したり、捕獲トラップを設置したりして、この戻りバチによる二次被害を徹底的に防ぎます。プロの駆除とは、生態への深い理解と、状況に応じた的確な判断力、そして何よりも安全を最優先する徹底した準備に基づいています。