なめくじと聞くと、多くの人が「庭の植物を食べる厄介者」というイメージを持つでしょう。丹精込めて育てた花の新芽や、家庭菜園のイチゴやレタスに、這った跡と食い破られた穴を見つけた時の落胆は大きいものです。しかし、なめくじの被害は、こうしたガーデニングへの被害だけに留まりません。実は、私たちの健康を脅かす、無視できない危険性を秘めているのです。その最も警戒すべきリスクが、寄生虫「広東住血線虫(かんとうじゅうけつせんちゅう)」の中間宿主であるという点です。この寄生虫は、本来はネズミに寄生するものですが、その一生のサイクルの中で、なめくじやカタツムリを中間宿主として利用します。そして、この寄生虫に汚染されたなめくじそのものや、なめくじが這った野菜などを、人間が知らずに生で食べてしまうことで、人体に感染する可能性があるのです。人体に侵入した広東住血線虫の幼虫は、血液に乗って脳や脊髄に達し、「好酸球性髄膜炎」という重篤な病気を引き起こすことがあります。主な症状は、激しい頭痛、発熱、嘔吐、首筋の硬直などで、場合によっては四肢の麻痺や視力障害といった後遺症が残ったり、死に至ったりするケースも報告されています。このような深刻な健康被害を防ぐために、絶対に守るべき鉄則があります。それは、「なめくじを絶対に素手で触らない」ことです。子供が興味本位で触ってしまうことのないよう、十分に注意を払う必要があります。万が一触ってしまった場合は、すぐに石鹸で徹底的に手を洗いましょう。そして、家庭菜園で収穫した野菜や、購入した葉物野菜は、たとえなめくじの姿が見えなくても、食べる前には必ず一枚一枚丁寧に、流水でよく洗うことを習慣にしてください。なめくじ対策は、美しい庭を維持するためだけでなく、家族の健康という、何にも代えがたいものを守るための、極めて重要な衛生管理の一環なのです。