朝起きて鏡を見た時、あるいはふとした瞬間に腕や首筋に身に覚えのない火傷のような赤い筋状の跡を見つけ、それが猛烈に痒いという経験をしたならば、それは単なる湿疹や肌荒れではない可能性が高いといえます。このような症状の多くは、医学的には線状皮膚炎と呼ばれ、ある特定の昆虫が原因となって引き起こされる外傷的な皮膚疾患です。その主犯格とされるのが、アオバアリガタハネカクシという体長七ミリ程度の小さな昆虫で、俗に「やけど虫」という恐ろしい名前で呼ばれています。この虫はアリに似た細長い体型をしており、オレンジ色と黒色の縞模様が特徴的ですが、この虫の恐ろしさは刺したり噛んだりすることではなく、その体液に含まれるペデリンという強力な毒素にあります。この毒素は、皮膚に付着してから数時間から半日程度の時間をかけてじわじわと細胞にダメージを与え、まさに火傷をした時のような赤みや水膨れを引き起こすのです。厄介なのは、付着した瞬間に痛みや違和感がないため、多くの人が「いつどこでやられたのか」を特定できない点にあります。痒みが先行し、後からヒリヒリとした痛みが追いかけてくるような独特の感覚は、この虫による皮膚炎の典型的な兆候です。放置しておくと水膨れが破れて細菌感染を起こしたり、毒素が他の部位に広がって症状が悪化したりすることもあります。また、ペデリンという毒素は非常に強力で、虫を直接潰さなくても、肌の上を這っただけで線状の跡が残ることがあります。この赤い跡が筋状に見えるのは、虫が這った軌跡に毒素が付着し、それを無意識に手でこすったり広げたりしてしまうことが原因です。もし火傷のような跡を見つけたら、まずは流水で丁寧に患部を洗い流し、毒素を取り除くことが重要ですが、自己判断で市販の弱い痒み止めを塗り続けるのではなく、速やかに皮膚科を受診して適切な強さのステロイド剤を処方してもらうことが、跡を残さず治すための最短ルートとなります。特に顔や首などの目立つ場所に症状が出た場合は、色素沈着を防ぐためにも早期治療が欠かせません。この奇妙で不快な赤い筋は、自然界からの招かれざる客が残したサインなのです。