かつて、多くの自治体では、市民の安全を守るという観点から、スズメバチ駆除に対して、より積極的な関与を行っていました。費用の一部を補助する補助金制度や、防護服の無料貸し出しといったサービスは、その代表例です。しかし、近年、この自治体の役割には、少しずつ変化の兆しが見られます。その背景には、行政の財政状況の厳格化と、「所有者責任」の原則の徹底という、二つの大きな流れがあります。スズメバチの駆除依頼は、夏から秋にかけて、特定の時期に集中します。そのすべての案件に対して補助金を交付することは、自治体にとって、決して小さな財政負担ではありません。限られた予算を、より多くの市民が恩恵を受ける公共サービスに優先的に配分すべき、という考え方から、補助金制度そのものを見直したり、廃止したりする自治体が、全国的に増加傾向にあるのです。また、防護服の貸し出しについても、同様の動きが見られます。貸し出した防護服を着用して、市民が自力で駆除を行った結果、事故が発生した場合、自治体がその管理責任を問われるリスクがあります。また、防護服は適切な知識を持って着用しなければ、その安全性を完全に確保することはできません。こうしたリスク管理の観点から、安易な自力駆除を助長しかねない、防護服の貸し出しサービスを中止する自治体も増えています。これらの変化は、一見すると「市民サービスの低下」のように感じられるかもしれません。しかし、見方を変えれば、それは「駆除は、専門的な知識と技術を持つ、プロの仕事である」という認識を、社会全体で共有し、安易な素人判断による事故を防ごうとする、より成熟したリスク管理への移行とも言えます。市役所の役割は、直接的な金銭支援から、より信頼できる専門業者の情報を提供し、市民とプロとを繋ぐ「仲介役」や「情報ハブ」としての機能へと、その重点をシフトさせつつあるのです。私たち市民もまた、行政に過度に依存するのではなく、自らの安全と財産は、自らの責任で守るという、主体的な意識を持つことが、これからの時代には求められていくのでしょう。
スズメバチ駆除と自治体の役割の変化