長年、特殊清掃や賃貸物件の原状回復に携わってきたプロの視点から言わせていただくと、バルサン後の処理を「単なる換気」だけで済ませてしまっている方が驚くほど多いことに危惧を覚えます。私たちが現場に入る際、お客様がご自身でバルサンを焚いた後の部屋を点検することがありますが、一見綺麗に見える部屋でも、プロの目でチェックすると改善の余地が多々見つかります。バルサン後の清掃において、プロが最も重視するのは「薬剤の通り道」の逆算です。薬剤の煙や霧は、部屋の上部から下部へとゆっくり降りてきますが、同時に空気の流れに乗って、普段は開けない棚の裏や、冷蔵庫の背面、コンセントの隙間にまで侵入します。バルサン後、掃除機をかけるのは当たり前ですが、プロは特に「壁際」と「隅」に執着します。そこには薬剤によってパニックを起こし、逃げ場所を求めて力尽きた害虫の死骸や、彼らが残した排泄物が集中しているからです。これらを放置することは、将来的にダニやカバキコマチグモといった他の害虫を呼び寄せる誘引源となってしまいます。また、拭き掃除においてプロが使用するのは、ただの水ではありません。弱アルカリ性の洗剤や、アルコール除菌剤を併用することで、薬剤の油分を完全に分解し、同時に除菌も行います。バルサン後の床は、素足で歩くとわずかにベタつきを感じることがありますが、これは薬剤が定着している証拠です。この微かな違和感を完全に取り除くことこそが、プロの仕事です。特にキッチン周りでは、ガスコンロの五徳や、換気扇のフィルター付近など、油汚れと薬剤が混ざり合いやすい場所を入念に洗浄します。バルサン後の徹底清掃は、いわば建物の「デトックス」です。一度毒をもって毒を制した後は、その毒の痕跡を完全に消し去ることで、初めて真の清潔が完成します。もしご自身でバルサンを焚いた後に、喉のイガイガが取れなかったり、独特の臭いが気になったりする場合は、それは掃除が不十分であるという建物からのサインです。プロのような機材がなくても、時間をかけて丁寧に、隅々まで雑巾を走らせることで、その精度に近づくことは可能です。バルサン後の清掃を、単なる後片付けではなく、家をリフレッシュさせる重要なメンテナンス工程として捉え直していただきたい、それが現場を数多く見てきた私たちプロの切実な願いです。