私が数年前に新築のマンションに引っ越した際、最も楽しみにしていた設備の一つがリビングに設置された床暖房でした。エアコンのように空気を乾燥させず、冷えやすい足元からじんわりと温めてくれるその心地よさは、冬の生活を一変させる素晴らしいものでした。しかし、ある一月の非常に寒い夜、その幸せな時間は一瞬にして凍りつくこととなりました。お風呂上がりにポカポカと温まったリビングの床に座ってテレビを見ていたとき、視界の端で何かが動いたのです。最初は埃が舞ったのかと思いましたが、よく見るとそれは、冬には決して現れないはずの大きなクロゴキブリでした。彼は床暖房の恩恵を全身に受けているかのように、非常に機敏な動きでソファの下へと逃げ込んでいきました。私はパニックに陥り、すぐさま殺虫剤を手に取りましたが、そのとき抱いたのは、なぜ真冬に、しかもこんなに綺麗な新築マンションで、という強い疑問でした。後で調べて分かったことですが、高気密・高断熱の住宅に床暖房という組み合わせは、ゴキブリにとってはこの上ない天国なのだそうです。外が氷点下であっても、床暖房のパネル周辺は春のような暖かさが保たれており、彼らはそこでぬくぬくと冬を越していたのです。私の部屋を訪れた彼は、おそらく床下の暖かい空間から、壁の隙間を伝ってリビングへと這い出してきたのでしょう。あの夜の遭遇以来、私は床暖房をつけるたびに、足元に彼らが潜んでいるのではないかという不安に駆られるようになりました。そこで私が取った行動は、まず家中のあらゆる隙間をチェックし、特にキッチン周りの配管の隙間をすべて粘土パテで埋めることでした。さらに、床暖房の熱が届く場所の近くに、誘引力の強い毒餌をいくつか設置しました。冬のゴキブリは夏場よりも動きが鈍いとはいえ、床暖房で活性化している個体は侮れません。この苦い経験から学んだのは、現代の住宅においては、季節という概念は人間だけでなく害虫にとっても無効化されているということです。快適なテクノロジーを導入するならば、それによって生まれる副作用、つまり害虫にとっても快適な環境を提供してしまうというリスクに対しても、同時に備えを固めておくべきだったのです。今では徹底した隙間対策のおかげで彼らの姿を見ることはなくなりましたが、冬の夜に床を裸足で歩くときは、今でも少しだけ緊張してしまいます。