住宅のリフォーム現場で長年、床暖房の敷設工事に携わってきた技術者の視点から、この快適な設備が抱える構造的な脆弱性と、それがどのように害虫の侵入を許してしまうのかについて詳しく解説します。床暖房には主に温水式と電気式の二種類がありますが、どちらの方式を採用する場合でも、施工の過程で避けて通れないのが床板の一部を切り欠いたり、配管や配線を通すための貫通穴を基礎や床下に開けたりする作業です。この際、多くの現場では断熱材の充填やパネルの固定に意識が集中し、数ミリ単位の「穴の処理」が疎かになりがちです。ゴキブリは厚さ二ミリ程度の隙間があれば容易に通り抜けることができるため、配管と床材の間にわずかでも隙間が残っていれば、そこは床下の暗闇から暖かな室内へと通じる格好の入り口となります。特に温水式の場合、常に一定の熱を持つパイプが床下を這い巡るため、冬場であってもその周辺は昆虫の生存に適した温度が保たれます。床下の冷気から逃れようとする個体にとって、配管周辺から漏れ出る熱気は強力な誘引剤となり、吸い寄せられるようにして建物内部へと侵入してくるのです。これを防ぐためには、施工段階で配管周りを高気密なパテや発泡ウレタンで完全に密閉することが不可欠ですが、すでに完成してしまった住宅では後からの処置が難しくなります。アドバイスとしては、キッチンのシンク下や洗面所の床下点検口など、床暖房の配管が集中している場所の「立ち上がり部分」を徹底的に点検することをお勧めします。もし目に見える隙間があるなら、それは床暖房の熱を無駄に逃がしているだけでなく、害虫にフリーパスを与えているのと同じです。プロの現場では、防虫成分を含んだ特殊なシーリング材を使用してこれらの隙間を埋めますが、家庭でも市販の補修用パテを使用することで、かなりの侵入リスクを低減できます。床暖房という高度な住宅設備を導入するならば、同時に「気密の維持」という防虫の基本に立ち返ることが、長期的な安心を手に入れるための最も重要な技術的課題となるのです。