それは、静まり返った深夜二時を過ぎた頃のことでした。一日の仕事を終え、ベッドの中でスマートフォンの画面を眺めていた私は、視界の端で何かが動いたような微かな気配を感じました。ふと目を上げ、天井に近い壁際を見つめた瞬間、私の心臓は一気に跳ね上がりました。そこには、あの長い脚を放射状に広げ、不気味なほどの静寂を保ったままこちらを窺っているような「ゲジゲジ」の姿があったのです。これまでにも小さな虫の侵入はありましたが、あのような質量を感じさせる多脚の生き物が、自分のすぐ近くにいるという事実は、抗い難い恐怖と嫌悪感を私に植え付けました。私は反射的に飛び起き、殺虫剤を探しましたが、あいにく手元にはありませんでした。仕方なく、彼を見失わないように距離を保ちながら、その一挙手一投足を監視することにしました。しばらく見守っていると、彼は私の存在に気づいたのか、突然信じられないほどの速さで移動を始めました。それは這うというよりも、壁の上を滑るような、あるいは浮いているような滑らかな動きでした。そのあまりの機敏さに、私は捕獲することさえ諦めそうになりましたが、ふと以前読んだネットの記事を思い出しました。そこには「ゲジゲジはゴキブリを食べる味方であり、人間を襲うことはない」と記されていました。その一節が脳裏をよぎった瞬間、私の張り詰めていた殺意のようなものは、少しだけ和らぎました。彼がこの部屋にいるということは、私の知らない場所でゴキブリが蠢いているのかもしれない。そう考えると、目の前の奇怪な虫が、まるで孤独な自警団員のように見えてきたから不思議です。結局、私は彼を仕留めるのではなく、開いた窓の方へと誘導することにしました。厚紙を近づけると、彼は再び驚異的なスピードで逃げ回りましたが、数分間の格闘の末、無事に夜の闇へと帰っていきました。翌朝、私はこれまで以上に念入りに部屋の掃除を行いました。彼が迷い込まなくても済むように、そして彼が追うような獲物がいない清潔な空間を作るためにです。あの夜の遭遇は、私にとって単なる恐怖体験ではなく、自然界の複雑な食物連鎖の一端が自分の生活圏と交差していることを実感させる出来事でした。今でもふとした拍子に壁を見上げてしまいますが、以前のような一方的な拒絶感ではなく、どこか敬意に近い感情を持って、部屋の隅々を見回すようになっています。
深夜の自室でゲジゲジと遭遇した夜の記録