それは、静まり返った深夜に机に向かい、本の世界に没頭していた時のことでした。ふとした瞬間に首筋にわずかな違和感を覚え、小さなアリのような虫が這っているのに気づきました。私は深い考えもなく、それを指先で払い落としました。その時は何事もなかったのですが、翌日の昼過ぎ、首筋に異変が起きました。最初はただの虫刺されだと思っていたのですが、時間が経つにつれて、まるで熱湯をかけられた後のような火傷みたいな跡が浮き上がってきたのです。その跡は細長く、まるで赤い筆で一本の筋を書いたような不気味な形をしていました。何よりも耐え難かったのは、その猛烈な痒みです。蚊に刺された時のような単調な痒みではなく、チリチリとした熱感を伴う、狂おしいほどの刺激でした。鏡で見ると、赤い筋の上に小さな水膨れがびっしりと並んでおり、見た目も非常に痛々しい状態でした。調べてみると、これがアオバアリガタハネカクシという虫の仕業であると分かり、自分の無知を呪いました。あの一瞬、首筋の虫を叩き潰すようにして払ってしまったことが、最悪の選択だったのです。あの時、虫の体液が私の皮膚に塗り広げられ、そこに含まれる強力な毒素が時間をかけて私の肌を蝕んでいたのでした。数日後、痒みはさらに増し、寝ている間に無意識に掻き壊してしまったのか、水膨れが破れてジュクジュクとした状態になり、さらに範囲が広がってしまいました。病院へ駆け込むと、医師からは「もっと早く来れば、これほどひどくならなかったのに」と告げられました。処方された強力な軟膏を塗り、包帯で保護する生活が二週間ほど続きました。火傷みたいな跡は徐々に褐色に変化し、最後は皮が剥がれ落ちましたが、その後もしばらくは茶色い色素沈着が残り、鏡を見るたびにあの夜の後悔が蘇りました。この体験から得た教訓は、夜間の照明に集まる小さな虫を甘く見てはいけないということです。特に夏から秋にかけて、網戸を通り抜けてくるような極小の虫であっても、素手で触れることは大きなリスクを伴います。もし、また首筋に何かが這う感覚があったなら、次は決して払ったりせず、優しく息を吹きかけて飛ばすか、紙などを使って慎重に誘導して逃がすでしょう。火傷みたいな跡と、あの耐えがたい痒みは、一瞬の不注意が招く長期間の苦しみであることを、私は身をもって学びました。